平成24年度初回のイブニングシアターは、去る3月24日に逝去された作家・田村喜子氏を追悼し、「土木のこころ」と題して、田村氏に縁の深い2作品を取り上げました。また、前回に引き続き高橋裕先生には、「土木のこころと田村喜子さん」と題して、田村氏と「土木」との関わりについてご講演いただきました。参加された皆様には、大変ご苦労様でした。
・平成24年6月27日(水) 【上映プログラム】
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余部橋りょう さらなる100年へ
企画:清水建設(株) 制作:(株)キャメル 2010年 20分
余部(あまるべ)鉄橋は、1912年に完成したJR山陰本線に架かる我が国最大級のトレッスル式橋脚を有する鉄橋で、土木学会の「近代土木遺産」のAランクに指定されている。しかし、築後100年経過したことによる耐久性の低下、1986年の列車転落事故で強化された風速規制による定時運行阻害等からコンクリート橋への架替が決定された。 本映像は、2007年3月着工後、過酷な自然環境のもと、営業線を運行しながら新橋を構築し、2010年8月12日に新たに生まれ変わるまでの工事の記録である。 特に難工事の地上40m長さ90m、重さ3800tの橋桁を既設鉄橋撤去から移動、回転、中央閉合、レール接合し完成に至るまでの工事記録映像が、設計者、現場所長のインタビューを交えて列車の風景とともに楽しめるなど、理解を深めるための工夫が随所に見られ、技術的価値の高い作品であると同時に一般の方々にも親しみやすい作品となっている。 |
同パッケージより |
明日をつくった男
― 田辺朔郎と琵琶湖疏水 ―
原作:田村喜子著『京都インクライン物語』
企画・制作:虫プロダクション 監督:牛山 真一 2003年 86分
明治のはじめ、維新の傷跡を深く残し、東京遷都による衰退の危機にあった京都。その京都が近代都市として再生を果たす契機となった琵琶湖疏水は、琵琶湖と京都を結ぶ水路を造り、水道水と農業用水を確保し、交通路としての運河を整え、さらには水力発電施設の建設に取り組むというようにわが国最初の本格的総合開発事業であった。この工事の責任者を務めたのが田辺朔郎(1861-1944)である。
この作品は、理想に燃えた若き土木技術者 田辺朔郎が、当時の技術では無謀、不可能と誰もがその成功を危ぶんだ難工事を克服し、水力発電を取り入れるなどその決断力と実行力、独創性などをアニメーションやCG、記録映像を巧みに織り込みながら描いている。100年先の未来を見据えて前代未聞の難工事に挑んだ田辺朔郎の姿を通して、新しい未来を自分たちの手で築こうとする明治の人々の気概と魅力を、21世紀を担う子供たちに伝えようとする劇映画である。 学会外の識者も加えた審査会において、この作品の製作意図を表すための企画性、映像作品としての構成や製作技術、内容の教育・啓発的な面の評価、幅広い層への訴求性、高い作品性と完成度、感銘度などの点がきわめて高く評価され、第21回映画・ビデオコンクールにおける、最優秀賞に値すると認められた。 |
同パッケージより |
昭和7年10月25日京都に生まれる。
京都府立大卒業後,京都新聞社を経て作家活動に入る。
土木をテーマに多くの作品を執筆するが,平成24年3月24日急逝。
享年79歳
土木を主題にした作品には以下のものがある。
・昭和57年 京都インクライン物語(新潮社)
・昭和61年 北海道浪漫鉄道(新潮社)
・平成 2年 物語 分水路―信濃川に挑んだ人々(鹿島出版会)
・平成14年 土木のこころ(山海堂)
・平成21年 小樽運河ものがたり(鹿島出版会)
・平成22年 余部鉄橋物語(新潮社)
他多数。
昭和58年には『京都インクライン物語』 で第1回土木学会著作賞を受賞している。