同作品より
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40年前に製作されたこの映画は,長らく建設省岩手工事事務所の倉庫に眠っていたが,最近になって原版が発見され復刻版としてよみがえったもの.その内容には今も見るべきものがあり,極めて貴重な作品といえる.
北上川は昭和22年,23年に4回も大洪水を起こし,700余の命を奪うという大災害をもたらした.美しい北上川は戦時中,全く放置され治水工事が行われなかった.
この洪水の原因は何か.子供たちが作ったと思われる流域模型を利用して整然と解説される.上流域山林の乱伐,蛇行する流れ,岩山でせばめられた流路で水が逆流し,一関市が水びたしとなった.戦後の予算不足で復旧工事もままならない. 人々は貧困生活の中で石だらけの畑を復興しようと汗を流す.ようやく国も動いて堤防改修工事が進む.しかし,工事を横目に人々は家財を避難させ,小舟を用意する.この工事には当時としては最大級の蒸
気エンジンの掘削機が活躍する珍しい場面もある.
記録映画では,現地録音すら容易でなかった当時の困難を超え,理にかなった構成と力強いカメラワークに支えられて見ごたえある作品となっている.そして,治水には科学的対応が欠かせないこと,「治水はすなわち国を治めること」の言葉通り,いかに治水が重要かを,ちくり政治批判も交えて強烈に訴えようとした映画製作者の意気込みが,いまでも観る者に伝わってくる.
当時のすさまじい惨状を見るだけでも映像の力を改めて痛感する. (堤哲朗:土木学会誌1990年10月号p.56)
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