公開講演会(2022年度第3回原子力土木委員会第1部) 実施報告
原子力土木委員会幹事団
1.講演会開催情報
日時:2023年1月27日(月)13:00-14:30
場所:オンライン開催(Zoomウェビナー)
講師:糸井 達哉 様(東京大学 大学院工学系研究科 建築学専攻 准教授)
演題:「外的事象に関わるリスク評価技術の標準化に関する最近の取り組み」
概要:
2011年福島第一原子力発電所事故以降の日本原子力学会などにおける外的事象に関わるリスク評価技術の標準化に関係する取り組みなどを概観しながら、事故の教訓が日々の活動にどの程度反映ができているか、また、そもそも教訓として学べていないことは何かについて私見を述べる。
参加人数:143名
2.講演会報告
講演会冒頭で、原子力土木委員会 中村委員長より開会の挨拶があり、続いて岡田幹事長より糸井氏の経歴が紹介された。
糸井氏の講演では、①2012年以降のリスク評価技術の標準化などに関わる活動、②原子力安全の議論の場の創成の試み、といったテーマに関する講演が行われた。
まず、前提として、福島第一原子力発電所事故の教訓は学協会を含む研究開発・高等教育の諸活動に根付いたのか、という問題意識が述べられた。
①においては、この問題意識のもと、2011年以降の福島第一原子力発電所事故の教訓の反映,リスク評価技術などの標準化に関わる活動と②で述べられる関連する大学での活動の紹介を通して、事故の教訓が日々の活動にどの程度反映ができているか、また、そもそも教訓として学べていないことは何かについて、多岐にわたる資料に基づき説明された。
②においては、東北地方太平洋沖地震を踏まえた東京大学の取り組み、福島第一原子力発電所事故を踏まえた東京大学における原子力安全に係る教育、これまでに東京大学で講演いただいた方々(2021年以降)の紹介、リスクマネジメントにおけるリスクとコストの比較(安全文化)、人材育成に関わる課題、原子力安全規制の本質、原子力安全のマネジメントの課題、地震ハザード評価の不確かさへの対応で重要なこと、標準化において重要なこと、地震リスク評価の本質、人材育成に必要と考えられる要素、等について説明された。
質疑応答の時間においては、以下のような質問があり、各質問への応答がなされた。
Q:示方書の改定の審議においてもよく議論されることではあるが、リスク評価と設計とは別もののように捉えられることもある中、本質的には両者の検討プロセスの中で、同じようなことが実施されているようにも考えられるがいかがか?
A:その通りである。本来は、耐震設計の中でも同じようなことは行われなければならないが、現状ではそれぞれの専門分野における個別の検討が中心になっている場合が多いのではないか。本質的には、地震PRAも耐震設計もその目的は同じであって、将来的にどのように耐震設計に地震PRA的な視点を入れていくか(同時に地震PRAに耐震設計の視点をより取り入れていくか)、これらは対立する概念ではなくて、将来的には統合されていくべきものと考える。現状の耐震設計で足りない部分というのは、重要度に応じて安全余裕をどのようにつくり込んでいくか、それにより、極めて重大な事故をどう防ぐか、というところまで含めて充実させていくこと、そういうところがPRA的な考え方に基づいて行われていくのであれば、どちらの方が大事なのかという議論は不要になる。
Q:これからPRAを設計の実務に実装していく時に何が課題になるか?
A:本来は設計者がPRA的なこともできて、PRA技術者がディテールをサポートするという形でも良いが、分野として違う人が独立に評価すれば良いわけではなく、それらの専門家のインテグレーション、インタラクションを考慮して設計していくところが実務に実装していく時に課題になる。
Q:地震PRAは不確実さが大きいから使えないという意見がよく出される。一方、本日の講演を踏まえれば、地震リスクは不確実さが大きいことは事実であるから、不確実さが大きいから使えないと言っている人は公衆に対して正直でないと解釈して良いか?
A:PRAは確率の値を見てOK、NGを判定するだけのものと解釈される場合は、地震PRAは不確実さが大きいから使えないという反論で十分となる。一方で、PRAはもう少し違う形でとらえて、まず事故の分析をきちんとしている、その中でどういう設備が重要だということをきちんと評価している、そういうことをきちんと最終的な判断に使うという形でPRAを活用し、説明をする人に対して、不確かさが大きいから使えないという反論はナンセンスと考える。不確実さが大きいから使えないといわれる場合には、加えて、PRAを使う側に問題となる理由があるケースがある。PRAを行ったときに、前提条件の設定によって結果が異なる場合もありうるが、そのような検討を裏で評価をしているだけで、表に出さない(PRAの不確実さに含めない、または、前提条件として明示しない)で、良い結果だけを出しているとか、そういうようなことがあれば、そういう結果を見たら、その反論として不確かさが大きいから使えないと差し戻すというのはあり得るかもしれない。
Q:伊方SSHACが成功裏に終了して以降、まだ他のサイトへ展開されていない。多分、理由は、一連の検討を実施するのに時間がかかる、費用もかかるといったこと。そういうサイトでは、伊方SSHACをベースに使って、水平展開を行うようにすれば時間も費用も合理化できると考える。そういう展開をしていくためのガイドをすぐにでも出すべきと考えるがいかがか?
A:進みは遅いが、共通認識ができて来ている。多くの人に理解頂かないとSSHACは実現しないので、遅いと言うこともできるが、周りからそう言って頂きつつ、粛々と水平展開を行うという進め方が良いであろうと考えている。
Q:最近、SSHACを表面的にとらえた論文が多く見られる。査読論文でも表面的に扱われ、例えば判断の幅が対数正規分布とされたりして、SSHACの真髄に当たるところが誤解されている状況が目に付く。このような現状についてどう考えるか?
A:論文や報告書などで、専門家にアンケートを取って、それをロジックツリーにならべるだけで認識論的不確実さの評価になるというような記載も散見される。アンケートは「意見」でしかなく、SSHACの考え方(Technically defensible interpretations [技術的に抗弁できる判断])とは全く相いれない。ロジックツリーをつくるということはどういうことなのか、なぜつくるのか、ということを筆者が理解できているかどうか、筆者が認識論的不確かさの評価と言っていても、それが本質的にSSHACの考え方に基づくものであるのか読者側が気をつけなければならない。判断の幅が対数正規分布になることはありえない。判断には上限と下限があるので、認識論的不確実さを対数正規分布とするのは、近似としては正しい場合もあるかもしれないが、一般には正しいとは言えない。