原子力土木委員会幹事団
日時:2023年7月31日(月)13:00-14:30
場所:オンライン開催(Zoomウェビナー)
講師:窪田 茂 様(原子力発電環境整備機構 技術部 部長)
演題:「地層処分に関する土木技術的な課題」
概要:
地層処分の概要として、対象廃棄物、地層処分の仕組み、安全確保の考え方などを紹介した上で、NUMOがセーフティケースとしてとりまとめた安全な地層処分の実現に向けた技術や、それを支える科学的知見を包括的に示した報告書(包括的技術報告書)のうち、工学的アプローチの概要を紹介する。そして、今後の課題の中でも土木技術的な話題として、事業で多く使用することが想定されるベントナイト材料の調達多様性の確保に向けた取り組み状況、坑道の耐震性評価手法を整備するための課題について紹介する。
参加人数:276名
講演会冒頭で、原子力土木委員会中村委員長より開会の挨拶があり、続いて中島幹事長より窪田氏の経歴が紹介された。
窪田氏から、地層処分に関する土木技術的な課題をメインテーマに講演が行われた。地層処分の概要について説明の後、NUMOが2021年に公表した包括的技術報告書について、特に土木分野の設計アプローチと報告書作成過程で抽出された技術的課題について説明があった。そして、技術的課題に対するNUMOの取組について事例紹介を交えて説明があった。
地層処分の概要については、我が国における地層処分の対象となる放射性廃棄物としてどのようなものがあるのか、またそれらの処分方法、高レベル放射性廃棄物及びTRU廃棄物の種類と特徴の説明があった。次に、地層処分の概念や地層処分システムによる隔離・閉じ込め機能の確保の考え方の説明があった。さらに、処分地選定プロセスについての説明、最後に、地層処分場の概要と地層処分のリスクと対策の考え方の説明があった。
包括的技術報告書については、安全な地層処分を実現するための方法をセーフティケースとして取りまとめるとともに、技術的信頼性や実用性をさらに向上するための技術的課題について説明があった。次に、セーフティケースとはどういうものかとその役割についての説明があった。処分場の設計の目的とアプローチ、処分場に必要な要求事項、処分場の設計手順、包括技術報告書で示した工学技術分野に係る技術的課題について説明があった。
技術的課題に対するNUMOの取組については、人工バリア代替材料の成立性と坑道の耐震性評価手法の整備について、事例紹介とともに説明があった。
質疑応答の時間においては、以下のような質問があり、各質問への応答がなされた。
Q:科学的特性マップ県庁所在地市民との対話集会において、閉鎖までに70~80年かかり、閉鎖前に新しい知見が出たときにどうするのかとの質問と、原子力では技術が確立するとフィードバックする弾力性に乏しいとのコメントがあった。そこで、70~80年の間に新しい知見があれば、新知見に基づき、堀戻し対応すると回答し納得をいただいた。今日の資料ではフィードバックがなくなっていたように思うのだが、どのような扱いなのか教えていただきたい。
A:説明を省略したが、将来世代の選択肢を残すため、回収可能性の維持は明確な要件としてある。可逆性を担保することに加え、処分場を閉鎖するまで廃棄物の回収可能性を維持することは、国の基本方針に定められている。仮に新たな技術が進歩して、将来世代の方々が地層処分よりも新たな技術を選択する判断をするのであれば、埋設した廃棄体を回収するのが国の基本方針で定められている。
C:以前に、NUMOから耐震設計について不確かさを考慮せず、決定論的なシミュレーションの取り組み例についてコメントが求められた。本日の話では不確かさが考慮され進展していると思った。
Q:耐震設計において、地震動を対象として取り組んでいるようであるが、どちらかというと断層変位の方が重要なハザードだと認識するが、どのように考えているのか。
A:中越地震や熊本地震時、断層が動いた変状の影響でトンネルが被害を受けたということがあった。まずは揺れに対して取り組み、地殻変動についても検討したいと思っている。
Q:原子力学会において断層変位PRA実施基準が2020年に策定された。同実施基準の講習会にNUMO職員が参加し、積極的に質問していたと聞いた。同実施基準は、現在アップデートを始めるところなので、地層処分に係るニーズについて、原子力学会と連携して取り組むと合理的でないか。
A:頂いたご意見に感謝する。
Q:東北地方太平洋沖地震時の石油地下備蓄基地や類似施設の被害状況について確かめたか?
A:東北地方太平洋沖地震では地下構造物の被害事例がほとんどないと承知している。代表的な事例として岩手県久慈市に地下石油備蓄基地があり、津波によって地上施設は壊滅的な被害を被ったが、地下施設は問題なかったと聞いている。これまでの対話型全国説明会では、地下の揺れが地上に比べて小さいことに加え、地下の被害が少ないことの説明をする際の事例として活用している。
Q:最近、小型の核融合炉の開発が世界的に盛んに行われている。廃棄物も含め、安全・安心なものなのか。
A:新型炉についてあまり詳しくないが、新型炉から出てくる廃棄物を処分することに関し、基本的に地層処分するのであれば、隔離・閉じ込め機能が担保できる場所を選んでそれに対応できる設計をし、不確実性も含めていろいろな安全性を確認していくという流れに変わりはないと考える。
Q:説明内容にあった技術的課題について、おおよそいつ頃を目途に解明したいと思っているのか。
A:基本的に今の技術で、地層処分は実現可能だと考えている。処分場の閉鎖後長期の影響評価を行ううえでは不確実性の低減は重要であり、そのために現象理解の信頼性向上等に関する技術開発は継続して行う必要があると考えている。例えば、人工バリア代替材料に関する技術的課題として、オーバーパックの腐食に対する微生物影響が挙げられていることを紹介した。これに対しては、緩衝材に使用するベントナイトの密度を高めることで微生物によるオーバーパックの腐食を防止できる見通しがあるが、その論拠となるデータを拡充することで現象理解の信頼性向上に資するというものである。
Q:普通の土木構造物と異なり、タイムスパンが長い。重要なのは築き上げた技術の継承であるが、それについて考えがあればお聞かせ願いたい。
A:長い事業であるがゆえに人材育成・技術の継承は重要であると認識している。オールジャパンで取り組む地層処分研究開発では、NUMOと研究機関との共同研究を通じた技術移転を始めとして、様々なアプローチで技術継承する仕組みを整備していきたいと考えている。
Q:技術的課題がいつ頃までという話があったが、土木技術の中でどう設計し、どう確認するかが一番重要。工学技術を超長期で評価しようとすると不確実性が非常に高く、なんとなく保守的となる。時間軸を閉鎖、廃止、核種のピークで見るのか、時間軸を考慮した設計を行うことが非常に重要である。安全としての確保ができる到達点があり、そこを満たすのが設計だと思うが、到達点が中々示しきれていないので、永遠の課題が出てきて、いつになったら安全確保と言えるのかが見えない。そこを明確にすることで、今の技術で十分安全な処分場の設計であることを示すことができる。ただし、不確実性があるので、そこは精度向上という意味で課題があることにすれば、永遠の課題ではなく性能向上の位置づけなど明確に分けるべきだと思う。これが性能設計の基本だと思うがいかがか?
A:設計因子を基軸とした設計アプローチで性能設計の考え方を取り入れたつもりである。異なるサイトや事業段階においても、首尾一貫した設計を行うために処分場に求められる要求事項を満足するように設計をしなければならない。そのため、設計要件への適合性を判断するための指標と基準を設定したが、その根拠情報の拡充は今後も必要だと考えている。設計要件を満足するように設計した基本となる仕様に対し、閉鎖後や閉鎖前の影響要因を特定してその影響の評価を行い、基本となる仕様は妥当なものなのかどうかを確認することで、性能設計的な考えは取り入れている。
Q:資料中、必要に応じて設計の見直しとあったが、これがどういう基準なのか明示すると、達成できている部分とそうでない部分がはっきりする。設計と照査を繰り返して要求性能を満たすよう作るので、基準が見えるようにしていただくとありがたい。
A:閉鎖前安全を例にとると、深層防護の考え方に則って異常事象の発生防止策、拡大防止策を設計で検討するが、万一対策が機能しなかった場合を想定して影響緩和の観点から設計へのフィードバックは考えている。例えば、廃棄体の落下事象を考えた場合、発生防止策として把持の多重化、拡大防止策として高さ制限などは設計において考慮しているが、これらが機能しなかった場合に放射性物質の飛散に至るような評価結果になれば影響緩和の対策を設計に反映することになる。そのように検討をした事例は、セーフティケースレポートに含まれている。
写真1 ご講演いただく窪田茂様
写真2 土木学会でのご講演の様子
以上
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20230731_原子力土木委員会公開講演会実施報告.pdf | 813.19 KB |