公開講演会(2022年度第1回原子力土木委員会第1部) 実施報告
原子力土木委員会幹事団
1.講演会開催情報
日時:2022年5月20日(金)13:00-14:30
場所:オンライン開催(Zoom)
講師:堅達 京子(NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサー)
演題:「原子力とどう向き合うのか ~震災・脱炭素・ウクライナ危機から考える~」
概要:
2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故から11年が経過する中、将来における世界的な地球環境の崩壊を回避するためのカーボンニュートラルの実現に向けた各国のCO2排出量削減目標に対する施策が次々と実施され、脱炭素に資する発電方式によるCO2排出を伴わないエネルギーが注目されている。また、昨今ではロシアによるウクライナへの軍事侵攻に端を発して、天然ガスや石油などの燃料価格の急激な高騰等によるエネルギー危機への対応も重要な課題になっている。地球環境保全を目的としたCO2排出量の削減とエネルギー危機への対応が急務となっているこれらの世界的な動勢の中で、日本の原子力のこれまでと今後について改めて考え、今後の日本は原子力とどう向き合うのかについて、震災・脱炭素・ウクライナ危機を踏まえて考察する。
参加人数:226名
2.講演会報告
講演会冒頭で、原子力土木委員会 中村委員長より開会の挨拶があり、続いて岡田幹事長より堅達氏の経歴が紹介された。
堅達氏の講演では、①2011年の東日本大震災発災時、NHKスペシャル・クローズアップ現代やNHKアーカイブス「シリーズ原子力」を担当していた経験に基づく話題等から始まり、②書籍:「福島第一原発事故の真実」、「原発と大津波警告葬った人々」の紹介、③東海第2原発で事前の津波対策工事により安全確保ができた経緯、④カーボンニュートラルの実現に向けた各国のCO2排出量削減目標に対する施策、⑤脱炭素に資するCO2を伴わないエネルギーの動向、⑥ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に端を発したエネルギー危機及び核セキュリティの重要性、⑦異常気象や自然災害への対応、⑧持続可能な社会のインフラとして原子力はどうあるべきか、といったテーマに関する説明が行われた。
① においては、震災当時に原発のNHKスペシャルに関わり、NHKアーカイブスの「シリーズ原子力」という番組の制作に携わったジャーナリストとして、そして一般市民としての目線から見て、今、原子力土木の世界がどのように映っているのか、聴講者にとって客観的に考える契機になればと考え、本講演を引き受けた旨等が説明された。
② においては、福島第一原発の事故に関する複数の書籍等が紹介され、なぜ福島第一原発は事故時に最悪のシナリオを免れ得たのか、女川原発はなぜ同様の事故を回避し得たのかについて、経緯や教訓等が説明された。
③ においては、2007年延宝房総沖地震を踏まえた茨城県による津波想定が公表されたのを契機として、日本原電が事前の津波対策工事を実施したことにより、2011年の震災時に安全を確保できた経緯等が説明された。
④ においては、この11年間の中で、将来における世界的な地球環境の崩壊を回避するためのカーボンニュートラルの実現に向けた各国のCO2排出量削減目標に対する施策が次々と実施されている動向等が説明された。
⑤ においては、脱炭素に資する発電方式によるCO2排出を伴わないエネルギーが注目されている世界情勢等が説明された。
⑥ においては、昨今のロシアによるウクライナへの軍事侵攻に端を発して、天然ガスや石油などの燃料価格の急激な高騰等によるエネルギー危機への対応も重要な課題となっているとともに、核セキュリティの重要性が改めて説明された。
⑦ においては、近年、気候非常事態とも言えるような異常気象による風水害が毎年のように生じている実態と、地球規模での平均気温の上昇による将来への影響の大きさを考慮すると、2030年までが人類文明にとっての正念場であり、平均気温上昇に対する抑制策等を急務として実施して行かなければならない旨が説明された。
⑧ においては、地球環境保全を目的としたCO2排出量の削減とエネルギー危機への対応等が急務となっている世界的な動勢の中で、持続可能な社会のインフラとして、原子力はどうあるべきなのか、について述べられた。
質疑応答の時間においては、気候変動等、今後を見通すことは難しいが、逆に過去についても十分見えていないものがあるのではないかという点について、発展的な議論があった。過去に起こった同じような問題を現在まで繰返していることがあり、それを忘れているか、あるいは知っている人がいても情報が共有されないことにも問題がある。また、それぞれの組織の中が疲弊していることにより、全体像の議論ができにくくなっている。だからこそ、土木学会の役割・ミッションがあって、地震や津波や地下構造等、それぞれの分野では土木技術者が誇りをもって仕事に取り組んでいるが、少し引いて、全体像を俯瞰した場合に各論は総論においてどうなって行くのかを常に意識していないといけない。そういう意味で、今回の講演は非常にインパクトがあり有難かった、といった建設的な感想が述べられた。
また、質問として、アカデミックソサエティとしての原子力土木委員会等では、個別の技術についてはしっかり検討されていると考えられるが、それが上手く伝わるようになっていない。個別の技術検討の成果を原子力安全のシステムの中に組み込もうとしていることも対外的に伝わっていないと考えられる。これら2つの課題に対し、現在もアプローチしようとしているが、原子力土木委員会はアカデミックソサエティとして、今後どういうことを実施して行けば良いか、についてアドバイスを求める問いがあった。これに対する回答としては、現在のインターネット社会を活用し、技術的な成果を積極的に発信し続けることが大切であることが述べられた。今はインターネットの時代であることを活用し、発信ということにエネルギーを割いて、このサイトへ来れば、原子力の専門家の話が聞けるという仕組みにするのも良いし、また最新データとか、元の論文データへ行けるリンクのサイトも含めた発信活動というのも有効であり、これらを継続して行くことが信頼を取り戻す良い影響力をもたらすと考えられる旨が述べられた。そして、原子力土木委員会は堅い印象があるが、これまでに検証した成果を踏まえ、対話の場を設けるのも良い。その際、現代は発信力が問われる時代であるから、取材されるのを待つよりも、自らが発信して行くのが良いと考えられる旨も述べられた。さらに、普段は見向きもされない情報でも、あるインフルエンサーが注目し、引用したりすると、そこに関心が集まるとか、技術的な成果を効果的に広める方法はいくつかある。ネットの社会が今そういう構造になっているから、まずは発信を続けることが重要である旨が述べられた。
一方、メディア、報道関係者への要望として、どういう専門家の方に何を聞いたら良いか、報道関係者も普段からそのリテラシーを高めておいていただいて、必要な時に迅速に的確な専門家の意見を聞き取りし、視聴者に届けられるようにしていただきたい、との意見があった。これに対しては、まさに共感する意見であり、様々な専門分野があり専門家がいる中で、何らかの注目すべき事象が起きた場合に、誰に何を解説してもらうのが最適なのか、なかなかメディア外の人からは分かりにくいところであり、その点については報道関係者の中で、今後も日頃からしっかり指導して行きたいと述べられた。
以上、今回の公開講演会を通じ、多岐に渡るテーマについて改めて考える契機となり、有意義な議論が行われた。