原子力土木委員会幹事団
日時:2020年11月20日(金) 14:00-15:30
場所:オンライン開催(Zoom、およびYouTubeライブ配信)
講師:高田 毅士 先生(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA))
演題:「原子力発電所の地震安全の基本原則:提案と実践」
概要:
日本地震工学会の研究委員会「原子力発電所の地震安全の基本原則に関わる研究委員会(2016~2018年度)」がとりまとめた提案内容を中心に地震安全原則を紹介する。地震安全の特徴として、①不確定性が大きいこと、②被害が広域にわたること、③多くの設備、構築物が同時に被害を受けること、④津波や地滑りなどの外乱が随伴することが考えられ、これらの特徴を踏まえた安全確保の考え方を提案するとともに、これらの考え方に基づいた安全確保の実際的な方法についても報告する。
参加人数:143名
講演会冒頭、小長井委員長より「最近話題になっている日本学術会議についてTwitter上では任命拒否肯定派が反対派を上回っているとのニュースが出ていた。ツイート数は必ずしも世論ではないものの、仮にこれが原子力の問題であったときにどうなるかと考えさせられた。社会に学問がどのように捉えられているのか、信頼されるためにはどのような情報発信が必要か問われているような気がしている。本日の講演でも同様の指摘があるようなので大変楽しみにしている。高田先生、よろしくお願いいたします。」との開会の挨拶があった。続いて、司会の岡田幹事長より、高田先生の経歴が紹介された。
高田先生の講演では、高田先生が委員長を務められた日本地震工学会研究委員会(以下、研究委員会)の報告書「原子力発電所の地震安全の原則~地震安全の基本的考え方とその実践による継続的安全性向上~」(AESJ-SC-TR016:2019)に基づき、地震安全原則策定の背景、地震安全の原則、地震安全原則の実践が紹介された。地震安全原則策定の背景として、2011年の福島第一原子力発電所の事故以降、地震について科学的な議論とイデオロギー的な議論が混在しており工学からの情報発信が少ないこと、安全性の議論において発電所の本来の目的である社会への電力供給の観点が抜けていること、審査のために安全設計を実施しているわけではないこと等の問題認識があり、研究委員会設立に至ったことが説明された。また、研究委員会の議論として、審査を通過するという地震安全(seismic safety)だけではなく、発電所の供用性(serviceability)も耐震設計の目的として重要であることや、「耐震設計」に代えて「性能確保のための対地震ハザード設計」という名称を提案した背景が紹介された。
地震安全原則では、多段階リスクマネジメントの枠組みに基づいて、設計領域、アクシデントマネジメント領域、防災・減災領域でシームレスかつバランスの取れた対応を取ることで、総合的なシステム安全が確保することが説明された。地震安全原則の実践では、深層防護の概念も含めた耐震設計体系構築の基本的考え方として、設備単体の性能確保に加えて、設備集合(システム)としての性能確保の方法が提案され、地震ハザードの全領域を対象とした原子力発電所の性能確保のための設計体系が説明された。
質疑応答では、「許認可のための設計になっているとの指摘で、Sクラスの設備だけが注目されることに気付かされた。システムとしての設計を考えたとき、Cクラスの設備の評価も向上させなければ周辺地域も含めて防護できない。委員会、学会レベルで何をするべきであろうか」との意見があった。これに対し高田先生からは、「設計には原則が必要であり、それは共有できるものでなくてはならない。しかし、現状は原則が共有できておらず、議論のベースがバラバラである。異なる分野の人たちと議論するためにも、学会がベースとなる規則、考え方を提案していく必要がある」との見解が示された。他にも、理学と工学の専門家が対話することの重要性などについて意見が出され、活発な議論が行われた。
写真1 土木学会での講演の様子
写真2 ご講演いただく高田 毅士先生
写真3 会場での議論の様子
以上
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20201207_公開講演会実施報告.pdf | 790.38 KB |