本書は、日本初の大規模国家プロジェクトである安積疏水事業を、現場責任者・南一郎平の視点で描いた歴史小説である。南が多様な利害関係者と向き合い、困難な調整を重ねながら事業を前に進めていく姿を通して、安積疏水事業という国家的偉業が立体的に描かれている。
物語は土木専門外の読者にも読みやすく、事業前後で郡山がどう変貌したかを示す描写は、土木が人々の暮らしを豊かにする力を理解させてくれる。また、内務卿大久保利通ら明治の指導者たちが繰り広げる政治的駆け引きが挿入されることで、この事業が一地域の振興にとどまらず、新政府の確立に不可欠な士族対策という国家的な意義も有したことも伝わる。
さらに本書には、意思決定、測量、設計、地元調整、資金繰り、事故対応など、現代のプロジェクトマネジメントにも通じる要素が凝縮されている。土木技術者であれば、思わず「ある、ある」と頷き、自身の経験と重ね合わせながら読み進めることができるだろう。昔からの測量方法や橋梁技術に加え、蒸気タービンやダイナマイトなど当時の最新技術も紹介され、技術史的な学びも深い。
以上のように本書は、土木事業の意義と価値を一般に伝えると同時に、土木技術者やそれを志す者の専門的教養の向上にも寄与する作品であり、ここに土木学会出版文化賞を授与する。

植松 三十里